
最近では、クラウドソーシングやSNSの普及により、日本にいながら海外のクライアントと直接契約を結ぶフリーランスの方が増えています。そこで避けて通れないのが、実務の締めくくりとなる「英語での請求書の作成」ではないでしょうか。
日本語の請求書とはフォーマットや特有の表現が異なるため、最初は戸惑うこともあるかもしれません。しかし、基本の構成や使われる英単語を一度覚えてしまえば、決して難しいものではありません。この記事では、フリーランスが英語で請求書を書く際の手順や、間違いのない書き方のポイントをやさしく詳しくお伝えします。
海外取引特有の税金の扱いや、送金手数料の負担についても触れていきます。クライアントと良好な関係を築き、スムーズに報酬を受け取るための知識を身につけて、あなたの活動の幅を世界へと広げていきましょう。

英語での請求書作成において、まず知っておくべきは「決まった公的な書式はない」ということです。しかし、ビジネスの慣習として記載すべき項目は決まっており、それらを網羅することが信頼関係の構築に繋がります。
英語の請求書は「Invoice(インボイス)」と呼ばれます。日本の請求書のように角印を押す文化はなく、その代わりにロゴを配置したり、シンプルなテキストベースの構成にしたりするのが一般的です。左上に自分の情報を、右側にクライアントの情報を記載するパターンが多く見られます。
また、日付の表記には注意が必要です。アメリカ英語では「月/日/年」の順になりますが、イギリス英語やヨーロッパ諸国では「日/月/年」の順になることがあります。誤解を避けるために、「January 15, 2026」のように月を英語名で記載することをおすすめします。
全体的に余白を活かし、どこに何が書いてあるか一目でわかるようなデザインを心がけてください。フォントはArialやHelveticaなど、読みやすいサンセリフ体(飾りがない書体)を選ぶのが無難でしょう。作成後は必ずPDF形式に変換して、内容が書き換えられないようにして送付します。
英語の請求書に盛り込むべき項目は、大きく分けて以下の通りです。これらが漏れていると、クライアントの会計処理が遅れたり、支払いが保留になったりするリスクがあります。漏れがないか、作成のたびにチェックリストとして活用してください。
1. Invoice Number(請求書番号):管理用のユニークな番号
2. Issue Date(発行日):請求書を作成・送付した日付
3. Due Date(支払期限):いつまでに支払ってほしいかの期日
4. Seller Information(発行者の情報):あなたの氏名、住所、連絡先
5. Client Information(宛先):相手側の社名、担当者名、住所
6. Description / Services(品目・内容):提供した仕事の詳細
7. Amount / Subtotal(金額・小計):仕事ごとの単価と合計額
8. Total Amount Due(請求合計額):最終的に支払われる総額
特に「Invoice Number」は、後で問い合わせがあった際に非常に重要となります。自分の管理がしやすいように、日付と通し番号を組み合わせるなどして、重複しない番号を割り振るのが定石です。住所の記載については、日本の住所を英語表記にするルール(建物名・番地・市区町村・都道府県の順)に従ってください。
最大の相違点は、源泉徴収(Withholding Tax)や消費税の扱いです。日本国内の取引ではフリーランスへの支払いに源泉徴収が発生することが多いですが、海外取引では原則として日本の源泉徴収票は不要となります。代わりに、相手国の税法に基づいた書類が求められる場合があります。
また、通貨の単位も非常に重要です。「円(JPY)」で受け取るのか、「米ドル(USD)」で受け取るのか、契約時に合意した通貨を明記してください。通貨記号だけでなく、ISOコード(USD, EUR, JPYなど)を併記することで、金額の誤認を防ぐことができます。
さらに、支払い方法についても詳しく書く必要があります。国内であれば銀行名と口座番号だけで済みますが、海外送金の場合は「SWIFTコード」や「IBAN」といった国際送金用の識別コードが必須となります。これらがないと、クライアントが送金手続きを行えませんので、事前に自分の銀行の情報を確認しておきましょう。
請求書を作成する際に、正しい用語を使うことはプロフェッショナルな印象を与えるために欠かせません。ここでは、各項目でよく使われる英単語を整理して解説します。これらを組み合わせて使うことで、洗練された書類に仕上がります。
仕事の内容を示すセクションでは、具体的なサービス名を記載します。例えばライティングであれば「Article Writing」、デザインなら「Logo Design Fee」のように記載します。数量(Quantity)や単価(Unit Price)も忘れずに記入しましょう。
金額の集計部分では、割引がある場合は「Discount」、小計は「Subtotal」、そして最終的な合計金額は「Total」または「Grand Total」と表記します。もし過去に前払い(Deposit)を受けている場合は、その分を差し引いた額を「Balance Due(残高)」として示すのが親切です。
また、経費の精算が含まれる場合は「Reimbursable Expenses」という言葉を使います。交通費や資料代など、事前にクライアントの承諾を得ている費用を別項目として計上する際に便利です。こうした細かい用語の使い分けが、正確な会計処理へとつながります。
報酬を受け取るための銀行口座情報は、請求書の中で最も重要なセクションの一つです。日本国内の銀行を振込先に指定する場合、英語で以下の情報を記載する必要があります。銀行のウェブサイトで「海外送金受け取り用情報」として公開されていることが多いので、正確に転記しましょう。
・Bank Name(銀行名)
・Branch Name / Branch Code(支店名・支店コード)
・Swift Code(スイフトコード):銀行を特定するための8?11桁のコード
・Account Type(口座種別):普通預金は「Savings」、当座預金は「Checking」
・Account Number(口座番号)
・Account Name(口座名義):通常はアルファベット表記の氏名
最近では、Wise(旧TransferWise)やPaypalなどのオンライン決済サービスを利用するケースも増えています。その場合は、銀行情報の代わりに「Email address associated with PayPal account」など、サービスに登録しているメールアドレスを記載すれば問題ありません。どの方法で支払ってほしいかを明確に指定しましょう。
「いつまでに支払うか」という条件は、トラブルを避けるために必ず記載してください。英語では「Payment Terms」という見出しを使います。よく使われるのは「Net 30」という表現で、これは「請求書発行日から30日以内に支払い」という意味になります。
他にも、即時支払いを求める場合は「Due on Receipt(受領時に支払い)」、15日以内の場合は「Net 15」と書きます。フリーランスとして資金繰りを安定させるためには、できるだけ具体的な日数を指定しておくのが賢明です。
もし支払いが遅れた場合に延滞利息を請求する契約になっているなら、その旨も一言添えておくと良いでしょう。例えば「Interest of 1.5% per month will be charged on overdue invoices.(期限を過ぎた請求書には月1.5%の利息が課されます)」といった一文です。毅然とした態度を示すことで、未払いリスクを軽減できます。
請求書は単体で送るのではなく、必ずメールに添付して送付します。その際、相手が内容をすぐに把握できるように、件名や本文を丁寧に整えることが大切です。ここでは、信頼を勝ち取るためのコミュニケーション術を解説します。
クライアントのメールボックスには毎日大量のメールが届きます。その中で埋もれないように、件名だけで内容が伝わるように工夫しましょう。具体的には「Invoice [請求書番号] for [プロジェクト名] - [自分の名前]」といった形式が理想的です。
本文の構成は、挨拶、請求書を添付した旨の報告、支払期限の確認、そして感謝の言葉の4ステップで作成します。あまり長々と書く必要はありませんが、簡潔かつ礼儀正しいトーンを維持することがポイントです。
例えば「Please find the attached invoice for last month's services.(先月分のサービスの請求書を添付しましたのでご確認ください)」といった表現は、非常に汎用性が高く便利です。最後に「It has been a pleasure working with you.(一緒にお仕事ができて光栄です)」と添えると、好印象を残せます。
以下に、そのまま使える標準的なメールのテンプレートを紹介します。自分の状況に合わせて、適宜言葉を置き換えて使用してください。
Subject: Invoice #1001 for Graphic Design Services - Taro Yamada
Dear [Client Name],
I hope this email finds you well.
Please find attached the invoice (#1001) for the design work completed in December. The total amount due is $1,000, and the payment due date is January 31, 2026.
Thank you for the opportunity to work on this project. If you have any questions regarding the invoice, please feel free to contact me.
Best regards,
Taro Yamada
このテンプレートのポイントは、合計金額と期限を本文にも記載している点です。これにより、クライアントは添付ファイルを開かなくても、カレンダーへの登録や承認フローの準備を始めることができます。ちょっとした配慮が、支払いのスピードアップに繋がります。
海外との取引では、時として支払いが期日を過ぎてしまうことがあります。悪意がなく単に忘れられているケースも多いため、まずは「Friendly Reminder(丁寧な催促)」として連絡を入れましょう。感情的にならず、事実関係を確認するスタイルがベストです。
「I'm writing to follow up on the invoice #1001.(請求書#1001についてお伺いしたくご連絡しました)」と切り出し、支払いの状況を確認します。もしかするとメールが届いていない可能性もあるため、再度請求書を添付して送るのが親切です。
もしリマインドしても返信がない場合は、少しトーンを強めて「Please let me know when I can expect the payment.(いつ支払いが予定されているか教えてください)」と尋ねます。段階を踏んでアプローチすることで、関係性を壊さずに問題を解決しやすくなります。

英語で請求書を完璧に書けても、お金に関する「手数料」や「税金」の知識が欠けていると、手元に残る金額が想定より少なくなってしまうことがあります。フリーランスとして損をしないために、以下の3点は必ず押さえておきましょう。
銀行を通じて海外送金を行う場合、送金手数料が発生します。この手数料を「誰が負担するか」には、国際的なルールで3つのパターンがあります。これを知らないと、着金したときに見覚えのない金額が差し引かれていることに驚くかもしれません。
| コード | 意味 | 負担者 |
|---|---|---|
| OUR | Sender pays all | 送金人(クライアント)がすべての手数料を負担 |
| SHA | Shared costs | 送金人と受取人で手数料を分担 |
| BEN | Beneficiary pays all | 受取人(あなた)がすべての手数料を負担 |
フリーランス側としては、見積もった金額をそのまま受け取りたいため、契約時に「Fees are to be borne by the client(手数料はクライアント負担)」と合意しておくか、請求額に手数料分をあらかじめ上乗せしておくのが一般的です。特に「中継銀行手数料」が発生する場合、受取額が数千円単位で減ることがあるので注意しましょう。
日本の消費税法では、国外のクライアントに対して提供するサービスの多くは「輸出免税」の対象となります。つまり、請求書に消費税を上乗せして請求する必要はありません。この場合、請求書には消費税の項目を設けず、合計額のみを記載します。
ただし、これはあくまで「日本から海外へ」サービスを提供した場合です。内容によっては課税対象になるケースもあるため、大きなプロジェクトの場合は税理士に相談することをおすすめします。基本的には、海外クライアントへの請求で10%を上乗せすることはないと覚えておきましょう。
また、インボイス制度が始まっていますが、海外クライアントには日本の適格請求書発行事業者の登録番号を伝える必要はありません。相手は日本の消費税控除を受けないためです。あくまで日本国内の確定申告用に、自分の控えをしっかり管理しておくことが重要です。
アメリカなど特定の国のクライアントと取引する場合、現地の法律で報酬から源泉徴収が行われることがあります。そのまま放置すると、現地と日本の両方で二重に課税されてしまうことになります。これを防ぐのが「租税条約」です。
例えば、アメリカのクライアントから「W-8BEN」という書類の提出を求められることがあります。これは「私は日本に住んでおり、日本で納税しているので、アメリカでの源泉徴収を免除(または軽減)してください」と証明するための書類です。オンラインでサインできる場合が多いので、求められたら速やかに対応しましょう。
源泉徴収のルールは国によって異なります。初めての国のクライアントと契約する際は、「Is there any withholding tax required in your country?(あなたの国で源泉徴収は必要ですか?)」と事前に確認しておくと、後で手取り額に悩むことがなくなります。
毎回ゼロから英語の請求書を作るのは大変ですし、計算ミスのリスクもあります。現在では、フリーランス向けの便利なツールやテンプレートが豊富に存在します。これらを賢く活用して、本業に集中できる時間を増やしましょう。
最も手軽なのは、GoogleドキュメントやExcel、スプレッドシートのテンプレートを利用する方法です。多くの海外サイトで「Free Invoice Template」として配布されており、プロがデザインした洗練されたフォーマットを無料で入手できます。
一度自分専用のテンプレートを作ってしまえば、次回からは日付と金額を書き換えるだけで済みます。ただし、計算式が壊れていないか、端数の処理が正しいかは毎回必ず確認してください。また、PDFに書き出す際は、ファイル名に「Invoice_Number_YourName」のように規則性を持たせると管理が楽になります。
スプレッドシートを使う場合は、自動で日本円とドルの換算を行えるように関数を組んでおくのも一つの手です。ただし、最終的に請求書に載せるのは「確定した金額」ですので、レートの変動で金額が変わってしまわないよう、PDF化する直前に数値を固定するのを忘れないでください。
「Invoice Ninja」や「Wave Accounting」、国内サービスであれば「Misoca」や「マネーフォワード クラウド請求書」なども英語表記に対応しています。こうしたサービスを使う最大のメリットは、請求書の発行履歴が一元管理できる点です。
また、多くのサービスでは「支払いが完了したか」をステータス管理できたり、期限が過ぎた場合に自動でリマインドメールを送る機能が備わっていたりします。手動でのメール送付に心理的なハードルを感じる方には、システムによる自動送信は非常に強力な助けとなります。
さらに、PayPalやStripeといった決済プラットフォームと連携できるツールも多いです。請求書のメール内に「Pay Now」ボタンを配置し、クライアントがクレジットカードで即座に支払える仕組みを作ることで、報酬の回収スピードを劇的に高めることが可能です。
ツールを使っても、最終的な確認は人間の目で行う必要があります。送信ボタンを押す前に、以下のポイントを指差し確認する癖をつけましょう。一つでもミスがあると、プロとしての信頼を損ねるだけでなく、支払いの遅延に直結します。
・宛先の会社名や担当者名のスペルは正しいか?
・日付の形式は相手国に合わせているか、または紛れがないか?
・計算(数量×単価=合計)に間違いはないか?
・SWIFTコードなどの銀行情報は最新のものか?
・PDFのファイル名はわかりやすいものになっているか?
特に数字のミスは致命的です。クライアント側の会計担当者は、あなたの仕事内容を詳しく知らなくても「数字が合っているか」は厳しくチェックします。「100%正しい書類を送る」という姿勢が、継続的な案件獲得への隠れたポイントとなります。

フリーランスとして海外案件に挑戦する際、英語での請求書の書き方をマスターすることは、実務能力と同じくらい重要なスキルです。正しいフォーマットで、必要な情報を過不足なく記載された請求書は、あなたのプロ意識の高さを証明する最高のツールになります。
最初は用語や税金の仕組みに戸惑うこともあるかもしれませんが、基本の型を覚えてしまえば、あとはそれを繰り返すだけです。海外送金手数料の負担区分や、租税条約による源泉徴収の回避といったポイントさえ押さえておけば、自信を持って報酬の請求ができるようになります。
この記事でご紹介したテンプレートや英単語、そしてツールの活用法を参考にして、ぜひ英語での請求書作成に挑戦してみてください。請求作業という事務的なプロセスをスムーズに完了させることで、クライアントとの信頼関係はより強固なものになり、次の仕事のチャンスへと繋がっていくはずです。