海外には、日本では見かけないような独創的で洗練された編み物デザインがたくさんあります。しかし、いざ挑戦しようとしても、英語で書かれた文章主体のパターンを前にして、どこから手をつければいいのか戸惑ってしまう方も少なくありません。図解が中心の日本の編み図とは異なり、海外のパターンは独特の略語や表現で構成されています。
この記事では、英語の編み物パターンの読み方の基本から、頻出する略語、繰り返し指示のルール、そして日本の編み図との違いまでを詳しく解説します。一見すると難解な暗号のように見える英文パターンも、ルールさえ理解してしまえば実はとても合理的で読みやすいものです。お気に入りの海外デザインを自分の手で形にするための、第一歩を踏み出してみましょう。
英語の編み物パターンは、日本の編み図のように「一枚の図」で全てを表現するのではなく、言葉で手順を説明していく構成が一般的です。まずは、パターンの全体がどのような項目で成り立っているのか、その大きな流れを把握することから始めましょう。
パターンの冒頭には、作品のタイトルと共に「Skill Level(スキルレベル)」が記載されていることが多いです。これを確認することで、その作品が自分の現在の技術で編めるものかどうかを判断できます。一般的には「Beginner(初心者向け)」「Easy(初級者向け)」「Intermediate(中級者向け)」「Experienced(上級者向け)」といった段階に分かれています。
また、デザイナーの名前や、その作品の背景にあるちょっとしたストーリーが添えられていることもあります。英文パターンは読み物としても楽しめる側面があるため、まずはリラックスして全体を眺めてみてください。最初にざっと目を通すことで、作品の完成形や編む順序のイメージが湧きやすくなります。
次に確認すべきなのが「Materials(材料)」のセクションです。ここには使用する毛糸の種類、重さ(g)や長さ(yards/meters)、そして必要な個数が記載されています。海外のパターンでは、毛糸の太さを「Fingering」「Worsted」などの名称で呼ぶため、日本の「中細」「並太」との対応関係を知っておくと便利です。
道具については、編み針のサイズが「Needles」として紹介されます。注意点として、針の太さはミリメートル(mm)表記の他に、USサイズやUKサイズが使われることがあります。日本の号数とは規格が異なるため、必ず「4.0mm」といったミリ表記を確認し、手持ちの針と照らし合わせるようにしましょう。
日本の針と海外の針はサイズ表記が異なります。海外パターンを編む際は、号数ではなく「mm(ミリメートル)」で太さを選ぶのが最も確実です。例えば、日本の6号針は3.9mm、海外のUS6号は4.0mmと微妙に異なります。
「Gauge(ゲージ)」は、10cm四方の中に何目・何段あるかを示す数値で、作品を正しい大きさに仕上げるために不可欠です。英文パターンでは「10 cm = 20 sts and 28 rows in Stockinette stitch(メリヤス編みで20目28段)」のように記載されます。指定のゲージと自分の編み地が合わない場合は、針の太さを変えて調整しましょう。
「Sizing(サイズ)」については、海外パターンはサイズ展開が非常に豊富なのが特徴です。例えば「S (M, L, XL)」のように表記され、指示文の中でも「K 10 (12, 14, 16)」といった形で、サイズごとの目数がカッコ内にまとめられています。自分が編むサイズの数字にマーカーを引いておくと、読み間違いを防ぐことができます。
本格的な編み方の説明に入る前に、そのパターンで使われる「Abbreviations(略語)」の一覧が掲載されています。英文パターンは紙面の節約と読みやすさのために、編み目の名称を徹底的に省略します。例えば「Knit(表目)」は「k」、「Purl(裏目)」は「p」といった具合です。
このリストには、その作品特有の特殊な編み方の解説が含まれていることもあります。わからない略語が出てきたら、まずはこのセクションに戻って意味を確認する習慣をつけましょう。ここを確認せずに読み進めると、途中で意味がわからなくなり、手が止まってしまう原因になります。
英語の編み物パターンが難しく感じられる最大の理由は、独自の略語が多用されているからです。しかし、使われる単語は限定的であり、主要なものをいくつか覚えるだけで、驚くほどスムーズに読めるようになります。
まずは最も頻出する基本の略語を押さえましょう。「k(knit)」は表目、「p(purl)」は裏目を指します。また「st(s)(stitch/stitches)」は「目」を意味し、複数の場合は最後にsがつきます。これらを組み合わせた「k10」という表記は「表目を10目編む」という意味になります。
編み地の面を表す言葉も重要です。「RS(Right Side)」は編み地の表面、「WS(Wrong Side)」は裏面を指します。段を数える単位としては、平編みの場合は「Row」、輪編みの場合は「Rnd(Round)」が使われます。これらの用語を知っているだけで、今自分がどこを編んでいるのかを正確に把握できるようになります。
「k1」と「k 1 row」は全く意味が異なります。「k1」は表目を1目編むことですが、「k 1 row」はその段すべてを表目で編む、つまりメリヤス編みやガーター編みの指示として使われることが多いです。
形を作るために欠かせない増減目の略語もパターンによく登場します。「inc(increase)」は増し目、「dec(decrease)」は減らし目の総称です。具体的な技法としては、2目一度の「k2tog(knit 2 together)」や、右上2目一度に相当する「ssk(slip, slip, knit)」などが代表的です。
また、糸を針にかけるだけの「yo(yarn over)」は、レース模様や穴あき模様を作る際によく使われます。これらの略語は最初は呪文のように感じるかもしれませんが、実際に手を動かしながら確認していくと、編み方の動作と名称がリンクして自然に覚えられるようになります。
作品をスタートさせる「作り目」は「CO(Cast On)」、編み終わりに「伏せ目」をすることは「BO(Bind Off)」または「Cast Off」と表現されます。これらはパターンの最初と最後に必ず出てくる重要な言葉です。
また、目を編まずに右の針に移す「sl(slip)」や、編み終わった糸を処理する「fasten off(糸を切って引き抜く)」などの指示もあります。これらの基本用語が頭に入っていれば、パターンの大枠を理解するのに苦労することはありません。まずは以下の表を参考に、よく使われる用語を整理してみましょう。
| 略語 | 英語の名称 | 日本語の意味 |
|---|---|---|
| k | knit | 表目(表編み) |
| p | purl | 裏目(裏編み) |
| st(s) | stitch(es) | 目 |
| RS / WS | Right Side / Wrong Side | 表面 / 裏面 |
| k2tog | knit 2 together | 左上2目一度 |
| ssk | slip, slip, knit | 右上2目一度 |
| yo | yarn over | かけ目 |
略語の意味を理解したら、次はそれらがどのようにつなげられて「指示文」になっているのかを学びましょう。英文パターンには独特の構文があり、特定の記号を使って繰り返しの範囲を指定するルールがあります。
英文パターンで最も多用される記号が「*(アスタリスク)」です。これは「ここからここまでを繰り返す」という合図になります。例えば「*k2, p2; rep from * to end」という指示があれば、「表2目、裏2目を編み、このセットを段の最後まで繰り返す」という意味になります。
アスタリスクが2つ(**)出てくる場合は、より大きな範囲の繰り返しを指すなど、入れ子構造になっていることもあります。読解のコツは、まず「どこまでが繰り返しの内容か」を見極めることです。文末の「to end(最後まで)」や「3 more times(さらに3回)」といった補足情報とセットで読むようにしましょう。
アスタリスクと同様に頻出するのが、カッコによるグループ化です。「[k1, yo, k1] in next st」とあれば、「次の1目の中に、表目・かけ目・表目の3目を編み入れる」という具体的な動作をひとまとめにしています。また、サイズ別の目数指定にもカッコが使われるため、混同しないよう注意が必要です。
また、カッコの直後に「twice(2回)」や「3 times(3回)」と書かれている場合は、そのカッコ内だけを指定の回数繰り返します。文章が長くなってくると一見複雑に見えますが、数学の式と同じように、内側のカッコから順番に読み解いていけば、混乱することなく手順を追うことができます。
長い指示文を読むときは、ペンでスラッシュ(/)を入れて区切るのがおすすめです。例えば「k2, / p2, / sl1, / k2tog」のように動作ごとに区切ることで、一段の中で何をすべきかが視覚的に分かりやすくなります。
英文パターン特有の便利な言い回しもいくつかあります。特に重要なのが「At the same time(同時に)」というフレーズです。これは、袖ぐりの減らし目をしながら、同時に襟ぐりの形も作っていくような、2つの異なる指示を並行して進める際に使われます。
他にも「Work even(増減なしで編む)」や「Repeat Rows 1-4 for pattern(1段目から4段目の模様を繰り返す)」といった表現もよく目にします。これらは編み物特有の慣用句のようなもので、一度覚えてしまえば文脈から意味を推測できるようになります。文章の流れを止めることなく、リズムよく読み進めるためのポイントです。
日本の編み物愛好家にとって、英文パターンは最初は不親切に感じるかもしれません。しかし、文章中心のスタイルには、日本の編み図にはない独自のメリットや合理性が備わっています。その違いを知ることで、英文パターンへの苦手意識が興味へと変わるはずです。
日本の編み図は「地図」に例えられます。作品の完成図を目で見ながら、一目一目がどのような記号で構成されているかを直感的に理解できるのが特徴です。一方、英文パターンは「ナビゲーション(道案内)」に例えられます。次に何をすべきかを言葉で一つずつ指示してくれるため、図を読むのが苦手な人でも、指示通りに手を動かせば完成まで辿り着けます。
この「文章で説明する」という文化により、英文パターンは非常に詳細な説明が可能です。例えば、引き返し編みのような複雑な技法も、言葉を尽くして丁寧に解説されていることが多く、一度コツを掴めば図よりも迷いにくいという声もあります。視覚情報に頼りすぎないことで、編み地の構造そのものを深く理解できるようになります。
海外パターンの大きな魅力の一つは、サイズ展開の豊富さです。日本では「Mサイズのみ」といったワンサイズ展開が多いですが、海外ではバストサイズや身長に合わせて細かく数値が設定されているのが普通です。文章パターンであれば、サイズごとに数値を書き換えるだけで対応できるため、多様な体型にフィットする作品作りが可能です。
また、海外のデザイナーは、シームレス(縫い目なし)で編める構造を好む傾向があります。トップダウン(襟元から裾へ向かって編む)形式などはその代表例です。文章による論理的な指示があるからこそ実現できる、立体的で高度な設計の作品に触れられるのは、英文パターンならではの醍醐味と言えるでしょう。
海外パターンに挑戦する際は「Ravelry(ラベリー)」という世界最大の編み物SNSを活用するのが定番です。世界中のニッターが実際に編んだ写真や、サイズ調整のメモを公開しているため、パターンの読解を強力にサポートしてくれます。
英語のパターンを読み進める上で、避けて通れないのが「US(アメリカ式)」と「UK(イギリス式)」の用語の違いです。棒針編みではそれほど大きな差はありませんが、かぎ針編みの場合は同じ単語が全く異なる編み目を指すため、注意が必要です。
例えば、かぎ針編みの「dc(double crochet)」は、アメリカ式では「長編み」ですが、イギリス式では「細編み」を意味します。パターンを読み始める前に、そのレシピがどちらの規格で書かれているかを必ず確認しましょう。多くのパターンには冒頭に「US terms」や「UK terms」といった記載があり、これを見落とすと形が全く変わってしまいます。
編み物を英語で楽しむことは、単なる趣味の拡張にとどまらず、実は優れた英語学習の手段にもなります。好きなことを通じて英語に触れることで、勉強という意識を持たずに自然と語彙力や読解力を高めることができるのです。
編み物パターンの指示文は、基本的に「命令形」で書かれています。「Knit 10 sts.(10目編みなさい)」「Place marker.(マーカーを置きなさい)」といった具合に、動詞から始まるシンプルな構造が繰り返されます。これは、英語の基本文型を体感的に学ぶのに非常に適しています。
また、特定の文脈でしか使われない専門用語だけでなく、「remaining(残りの)」「alternate(交互の)」「increase(増やす)」といった一般的な英語試験でも頻出する単語が何度も登場します。編み物という具体的な動作と結びついた単語は記憶に定着しやすく、実戦的な語彙力を養うことができます。
英文パターンの読み方に迷ったときは、YouTubeなどで「技法名+knitting」と検索してみましょう。海外のニッターたちが、英語で解説しながら編んでいる動画が無数に見つかります。映像で手の動きを見ながら英語の説明を聴くことで、「何を言っているのか」が文脈から直感的に理解できるようになります。
これは、まさに「英語を英語のまま理解する」トレーニングになります。字幕機能を活用すれば、スペルと音を一致させることも可能です。編み物の技術を磨きながら、同時にリスニングの耳も鍛えられるこの方法は、机に向かって教科書を広げるよりもはるかに楽しく、継続しやすい学習法と言えるでしょう。
最初は短いマフラーやコースターなど、構造が単純な小作品から始めるのがコツです。いきなり複雑なセーターに挑むと、英語の解読だけで疲れてしまうため、成功体験を積み重ねながら徐々に難易度を上げていきましょう。
英語ができるようになると、InstagramやSNSを通じて世界中の編み物ファンと繋がることができます。「I love this pattern!(このパターン大好きです!)」といった簡単なコメントから交流が始まり、編み方の相談をしたり、お互いの作品を褒め合ったりすることで、英語を使う楽しさが実感できます。
趣味という共通言語があるため、多少文法が間違っていても意思疎通は十分に可能です。英語を「完璧に話すためのもの」ではなく「好きなことを共有するための道具」として捉え直すことで、学習へのモチベーションは飛躍的に高まります。編み物が、あなたの世界を広げる強力な助けとなってくれるはずです。
英語の編み物パターンは、最初は難しそうに見えますが、その構造は非常に論理的で分かりやすいものです。基本となる「k(表目)」や「p(裏目)」といった略語を覚え、アスタリスクやカッコによる繰り返しのルールさえ把握してしまえば、世界中で公開されている膨大な数のデザインにアクセスできるようになります。
日本の編み図という地図を頼りにする編み方も素晴らしいですが、英文パターンという道案内に従って一歩ずつ進む編み方も、新しい発見に満ちています。サイズ展開の豊富さや独創的な設計など、海外パターンならではの魅力をぜひ味わってみてください。この記事を参考に、少しずつ英語の表現に慣れていくことで、あなたの編み物ライフはより豊かで自由なものになるでしょう。まずは小さなプロジェクトから、憧れの海外デザインに挑戦してみてください。